財務省が、安倍元総理も側近達も皆気づかない内に「だまし討ち」して閣議決定させた「支出増は3年で1000億円以下」という財政キャップ
先日の7月9日・10日の「骨太の方針」について。
京都大学大学院教授・藤井聡先生からのメッセージです。
From 藤井聡@京都大学大学院教授
安倍さんが、息を引き取る直前まで全力を投入して実現しようとしていたのが、積極財政への転換、です。
安倍さんは、参議院選挙が終われば、「財政規律によって、重要な政策の選択肢が狭められてはならない」と明記された「骨太2022」に基づく、政府内における一般会計予算の策定についての具体的な政治闘争をせねばとの決意を固められておられました。ついては、7月8日当日の午前中まで、選挙後にどの様な取り組みを進めるべきかについての相談日程を調整しており、まさにお昼過ぎに事務所に改めて連絡差し上げる事になっていた矢先の訃報は、文字通り、晴天の霹靂、でした…。
積極財政への転換を果たすにあたっての最も重要な人物であられた安倍さんの暗殺は、まさにその転換の流れそのものを打ち砕く破壊力を秘めた恐るべきものとなり得ます……だからこそ、その訃報を耳にしたとき、天は我が国を見放したのか、と独り言してしまうほどの絶望感に浸ってしまったのでした……。
では、安倍さんは一体何と戦わんとしていたのかといえば、表面的には「緊縮財政派」という事になります……が、究極的には、総理大臣をすら欺く「詐欺」とすら言い得る狡猾な罠を仕掛け、政府支出を徹底的に抑制させ続けた「財務省」だったということが、生前の安倍さんの発言からはっきりと見て取ることができます。
その様子がハッキリと示されているのがこちらの動画です。
https://youtu.be/nqEpzjmno_o?t=2288
これは、本年6月15日の、自民党の「責任ある積極財政議連」における安倍さんの講演の動画なのですが、この中で、
「総理大臣の自分でも知らない間に、予算(社会保障費以外)は3年間で1000億円しか増やしてはならない、という財政規律を、私は財務省に閣議決定させられてしまったのです。もちろん私が総理大臣ですから、その閣議決定の責任は私にあるのですが、財務省は小さな『脚注』を駆使しながら、誰も気付かないような記述の仕方をして、恐るべき財政キャップを、閣議決定させたわけです。余りにも不誠実です。」
という旨を述べ、財務省に対して激しい不快感を表明しておられたのです。
……
ついては以下、この「詐欺」の手口を詳しくご紹介差し上げましょう。
まず、本年6月に閣議決定された骨太2022には「プライマリーバランス規律」は文字としては明記されませんでしたが、「骨太2021に基づく」旨が明記されました。
では、その「骨太2021」には何が書かれているのかを確認すると、「プライマリーバランス2025年黒字化目標」が書かれてあるので、実質的にPB規律が残る事になったのです。
しかも、「骨太2021」は、過去時点の骨太に基づくということも記載されており、それをひもといていくと、その出発点が「骨太2015」であるということが判明しました。
で、その骨太2015を確認すると、そこには、次の様な文章が書かれてあったのです。
https://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-12751811990.html
(本文)「安倍内閣のこれまで3年間の…社会保障関係費の実質的な増加が…1.5兆円程度となっていること…を踏まえ、その基調を2018年度まで継続していく」
(脚注)「国の一般歳出の水準の目安については、安倍内閣のこれまでの3年間の取り組みでは…実質的な増加が1.6兆円となっている…その基調を2018年度まで継続させていく」
要するに、社会保障費は、3年間で1.5兆円(年間5000億円ずつ)増額していくと同時に、一般歳出トータルの支出は、3年間で1.6兆円(年間5333億円ずつ)増額していくことにする、ということが記載されていたわけです。
書かれてあるのは以上なのですが、この二つの記述をあわせて解釈すれば、社会保障費以外の予算は、3年間で1000億円(=1.6兆円―1.5兆円)しか増やさない、という事を示すものであると解釈できます。
つまり、骨太2015を策定したことで、「社会保障以外の予算は3年合計で1000億円しか増やせない」ということが閣議決定させられてしまっていたのです。
……が、ここで重要なのが、この点について、安倍さんは、次の様に述べている、という点です。
「5000億以外については私の記憶では議論した記憶が全然無いんですね。」
つまり、安倍さんは、骨太2015の「本文」に記載された、社会保障は3年で1.5兆円増やす、という点については、議論もしたし、それを決めたことも記憶しているが、上記の「社会保障以外の予算は3年合計で1000億円しか増やせない」という点については、議論した記憶が全くない、とおっしゃっているわけです。
だから、安倍さんは、当時の事を回りの人に聞いて回ったそうです。
「その時の記憶を辿っていろんな人に聞いてるんですが、『そんなこと、議論してないよね』ということなんですよね。」
もちろん安倍さんは、「ただもちろん、私は当時総理大臣ですから、注とは言え、閣議決定していますから、私の責任ではあります」と言明はされています。しかし、安倍さんは、当時の事を振り返って次の様におっしゃっています。
「もちろん、私は当時総理大臣ですから、注とは言え、閣議決定していますから、私の責任ではありますが、こんな注に書いてあることを……総理大臣はいちいち注は読まないですから……。
あの時、何が私一番忙しかったかというと、平和安全法制なんですよ。平和安全法制って9月までやっていましたから。で、わたし、だいたい1000問、答えてるんですがね、それで頭一杯の中での説明だったんで、これは全然その中ではじめて……あの今回ですね、黄川田副大臣にいわれて、「あ、そういうことだったのか」ということなんですが。
ですが、注に書いてあることをですね盾にとって、さらに18年に飛び、21年に飛び、今回21年っていうことだけしか言及しないというのは、あまりに不誠実なんではないかと思います。」
要するに財務省は、
「社会保障以外の予算は3年合計で1000億円しか増やせない」
という極めて重大な財政キャップを、誰もが見落としがちな小さな「注」に、1.5兆円とは異なる1.6兆円という数字をこっそり忍び込ませることを通して、そして、総理大臣はじめとした関係各位が皆安保法制で多忙である状況を活用し、誰にも気づかれないようにしながら閣議決定させることに成功したわけです。
そしてそれ以後、政府の当初予算は、この財政キャップにしっかりと制約されながら、ほとんど増額されることが無くなっていったのです。
当時、一般の官僚達が皆「財務省は当初予算は絶対増やしませんから、補正予算でやっていくしかないんですよ」と判で押した様に口にしていたのですが、その根拠となったのが、安倍さんを「欺いて」閣議決定されたこの骨太2015だったわけです。
……安倍さんは、当時のこの事を振り返り、大変に悔しい思いをされていたことが、以上の発言から読み取ることができます。
骨太の方針は、政府予算を決める大方針。だから、政府にとって何よりも大切な文書なのですが、「霞ヶ関文学」と呼ばれる、役人独特のロジックでとりまとめられるもので、役人以外の政治家や学者では、その真意を読み解くことが難しいことが、往々にしてあるのです。
そして、その骨太の方針の原案を纏めているのが、財務省ですから、総理大臣や側近ですら気が付かないようにしながら文書をまとめ、わざと分かり難く重要事項を忍ばせ、きちんと関係者に説明しないままに閣議決定させる、という「高度なだましのテクニック」を財務省はもっているのです。
これこそ、財務省の巨大な政治パワーの源泉の一つなのですが、安倍さんは、そういうパワーを持つ財務省と、徹底的に戦う決意を、既に固めておられたのです。
岸田総理をはじめ、多くの方が、「安倍さんの思いを受け止め、引き継ぐ」を言明されておられますが、その際に絶対に忘れてはならない思いは、こういう財務省と戦うのだ、という決意です。
財務省と戦い、国民の為の財政政策を展開し、豊かな国を作る―――これこそが、安倍晋三氏が最後の最後まで最も強く願った思いなのです。是非とも岸田総理はじめ、安倍さんの思いを引き継ぐと言明された方は、その思いをしっかりと受け止め、引き継いでいただきたいと思います。