これらの小さな乗り物は、あなたが想像もつかないようなもので運転されている
文: カーリー・カセラ 2024年7月23日
1959年、有名な理論物理学者リチャード・ファインマンは、マイクロロボットが私たちの血流の中を泳ぎ、私たちの体内を修復したり、そのまま薬を届けたりする未来を空想した。
それから65年、科学者たちはその現実に少しずつ近づいている。
東京大学のエンジニアたちは、外部電源を必要とせずに極小の微細構造をモーターで動かす方法を発見したのだ。
その方法とは?自由に動く単細胞生物のチームを、ちっぽけな馬のように「戦車」につないだのだ。
この研究は単にかわいらしさを追求したものではない。これまでに設計された「マイクロボット」の問題点のひとつは、あまりに小さいため、血液のような液体が糖蜜のような粘性を帯びてしまうことだ。
そのため科学者たちは、このような構造物をより簡単に推進できるほど強力な小型モーターを何年も前から作ろうとして きた。
日本の技術者たちは、緑藻類クラミドモナス(Chlamydomonas reinhardtii)の迅速な遊泳能力を利用して、ユニークな解決策を考え出した。
C. reinhardtiiの 各細胞の幅はわずか10マイクロメートルで、これは2020年に3Dプリントされた世界最小の船であるタグボートBenchyの3分の1の大きさである。
「複雑なマイクロマシンの開発に向けて、まったく新しい可能性を切り開くものです」とマシンの設計者は言う。
人間が食べても安全な藻類は、2本の鞭毛を動力源とし、平泳ぎと同じように各ユニットを前進させる。
特別に設計された手綱のようなバスケットの中に閉じ込められ、細胞の鞭毛は前に突き出ている。
画像: 東京大学・竹内章二研究グループ
これまで科学者たちが設計してきたマイクロモーターは、磁場や電場などの外部電源に依存することが多かったが、C. reinhardtiiの ような生きたモーターは自律的に動くことができる。
主執筆者の小田晴香博士らは、3Dプリントした2種類のプラスチック製ビークルを設計し、藻が操縦できるようにした。人間の平均的な髪の毛の太さは約100ミクロンである。
マイクロマシンのひとつは「スクーター」と呼ばれている。藻の細胞を2つ捕獲するためのバスケットが2つあり、どちらも同じ方向を向いていて、後ろの「戦車」につながっている。
促されることなく、C. reinhardtiiはそれぞれのコックピットに陣取る。
研究者たちは、各バスケットにC. reinhardtiiが入っていても、スクーターがまっすぐ動かないことに驚いた。その代わり、複雑に回転したり旋回したりした。さらに、15回のバックフリップと10回のローリング運動までした。
画像: 東京大学竹内昌治研究グループ
「ローテーター」と呼ばれるもうひとつの乗り物は、よりスムーズに動く。これは4つのバスケットで設計されており、すべてのバスケットが同じ方向を向き、車輪のような形にスポークで接続されている。
4つのバスケットをそれぞれ1つの藻類細胞が占め、この構造体は1秒間に平均20~40マイクロメートルの速度で「回転」する。
C. reinhardtiiは、邪魔されない状態では1秒間に100マイクロメートルの速度に達することができるので、研究者たちは現在、これらのマイクロマシンをより速く、より精密に動かせるかどうかを試している。
わずか56マイクロメートルの大きさのローテーターは、2017年に自走するバクテリアの動力を利用するために作られた、以前に設計された別のマイクロビークルよりも5倍大きい。
しかし藻類とは異なり、これらのバクテリアの速度は特殊な光変調器によって制御する必要があった。
「今回開発された方法は、藻の個々の動きを可視化するだけでなく、制約条件下での藻の協調的な動きを解析するツールの開発にも役立ちます」と、このプロジェクトを監修した竹内昌治氏は言う。
「これらの方法は、将来的には、水生環境における環境モニタリングや、水中の汚染物質や栄養分の移動など、微生物を利用した物質輸送に利用できる技術へと発展する可能性を秘めています」。
いつの日か、このような研究により、ファインマンの夢であった、血液のような液体環境で、生命そのものを動力源として、医薬品のような「小さな貨物」を運搬するマイクロロボットが実現するかもしれない。
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